
Story
誰もが彼のプレイに夢中だった。
シルクのように滑らかなボールタッチ、一度ボールを持ったら離さない利己的なドリブルは悪魔的でさえあった。
敵も、味方でさえも彼に魅了された。将来を嘱望された選手だった。
イリヤ・ペトロヴィッチ。彼は、ある日突然消えた。
ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の終結から十年後、私はトヨタカップで来日するシーナ・アクシシャヤを迎えに成田空港に車を走らせていた。あの、”やせっぽちシーナ”が今や代表のエースだというのだから、時間はあまりにも早く、未来は全く予想がつかない。
私は、彼と話すべきことがあった。あの日の、イリヤ・ペトロヴィッチと、彼を鼓舞するビリヤシュのサポーターの声と、そして私を含むあらゆる人達の傲慢についてだ。
ルシフェル…明けの明星を意味するキリスト教の定める悪魔/堕天使。通俗的なグリモワール(魔術書)では、七つの大罪のうち、傲慢を比肩する。
2014年10月31(金)〜11月3日(月祝)
【アフタートーク】
10月31日19:00〜 中村慎太郎(作家)氏
11月1日19:00 千田善氏(翻訳家、国政政治学者。イビツァ・オシム元サッカー日本代表監督通訳)
【写真展開催】
開場中、宇都宮徹壱氏によるボスニア・ヘルツェゴビナ ミニ写真展『SARAJEVO 1997』を開催
Cast
荒川ユリエル(拘束ピエロ)
平佐喜子(Ort-d.d)
三浦佑介(サルとピストル)
前園あかり
石塚みづき(スターダムプロモーション)
鹿島ゆきこ(アガリスクエンターテイメント)
吉永輪太郎(ヒューマナムー)
さいとう篤史
斉藤太一
大春ハルオ(ラチェットレンチ)
加藤素子
安田徳
大野由加里
井上千裕
水津亜子
信國輝彦
Staff
脚本・演出:南慎介(Ammo) 舞台監督:篠原絵美 舞台美術:照井旅詩 音響効果:ミ世六メノ道理 照明:阿部将之(LICLKT-ER) AP:山邊健介(レゴプラ) 演出助手:杉山幸 制作:吉水恭子(芝居屋風雷紡) イラストレーション:桐村理恵 デザイン/web管理:堀口節子
協力(敬称略)
ボスニア・ヘルツェゴビナ在日本大使館
宇都宮徹壱、木村元彦、千田善、中村慎太郎
拘束ピエロ、Ort-d.d、サルとピストル、アガリスクエンターテイメント、ヒューマナムー、ラチェットレンチ、KATO企画
エビス大黒舎、スターダムプロモーション、希楽星、ECHOES、
LICKET-ER、レゴプラ、芝居屋風雷紡、CoRich!舞台芸術
阿部紗穂里、池田智哉
写真提供 宇都宮徹壱
企画制作 Ammo
Introduction
本州と四国を合わせた程度の面積しかない旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国は、その崩壊の過程と共に民族浄化、NATO空爆が吹き荒れたヨーロッパ最大の政治的危機に陥った国でした。「ヨーロッパの火薬庫」とも呼ばれ、昨日までの隣人同士が殺し合いを始めたショッキングなニュースは未だに記憶に新しいと思います。
そしてまた、旧ユーゴスラビアの諸国は、キラ星のごときフットボーラーを生み出した、90年代「幻のサッカー王国」でもあります。デヤン・サビチェビッチ、プレドラグ・ミヤトビッチ、ズボニミール・ボバン、ダボル・シュケル、そして何よりドラガン・ストイコビッチ。しかし、彼らの多くは自分のキャリアのピークを戦争で不本意に傷つけられています。
彼らが順調にキャリアを伸ばすにつれ、戦争の影は濃く、彼らの足元にまで伸びて行きます。彼らの選択によって、同じクラブ、同じようなキャリアを歩んで来た選手達の未来は残酷にも枝分かれして行き、本来政治とは切り離されるべきスポーツの分野において、消えてしまった名もなき選手達がたくさんいます。
本作品は【日本人ジャーナリストから見た、郊外の街で育った人種の違う二人の少年フットボーラーの定点観測】です。