Ammo vol.4『光、さえも』無事全ての公演が終了いたしました。
ご来場いただきました皆様、関係者の皆様に篤く御礼申し上げます。
随分と長い旅路のようでしたが、ここで僕たちの「美を巡る旅」もひとまずの終着点となります。
実は、本作は当初別のモチーフで作劇される予定でした。
経緯は色々とあり、なかなか端的にお話しすることはできませんが、最も大きな理由は「私がこのテーマにチャレンジしたくなったから」です。
全てのキャスティング・スタッフィングが終わった段階でした。俳優・スタッフの理解と献身に本当に支えていただいたな、と五体投地で拝まなければならないような心持ちです。
「現代美術のはじまり」の物語。
さて、私たちは「美」に迫ることができたのでしょうか。
その答えは難しい。作中の人物たちと綺麗に重なります。美というものは届かない、つかめない、そんなことすらわかっているけれど追い求めざるえない。
それに必死に手を伸ばし続けた数ヶ月でした。いや、数ヶ月って。
改めて思うと自嘲してしまいますね。数ヶ月でお前は美に迫れると思ったのか、と。迫れると思ったよ。いや、少なくとも袈裟斬りに切ってやろうとは思っていた。全身全霊を込めて一太刀。逆に切り捨てられたらその時はその時、という一心でした。
とにかく、断言しよう。
マルセル・デュシャンという人は天才です。僕たちが及ぶようなものではなかった。僕は数かぎりない天才たる人物を取材し、考察し、凡人の地平に引きずり出し、彼らと対峙してきたのですが、彼は正真正銘の天才でした。こんなに人間の内壁に迫れない人はいなかった。だから、10人で引きずり降ろしました。彼を人間の地平に。
つまり、あの場にいたマルセルを除く全ての人間は私です。言葉ひとつひとつをとっても、どれも私でした。マルセルに迫ろうとした、思考の軌跡です。そして、それを人間にしてくれるのはいつだって俳優たちでした。
そして、マルセルもまた、私です。彼の思考の深淵は果てしなく、自分なんぞ縁すら見渡すことができなかった。だからこそ、私が彼の言葉を語る時に抜き身でいようと思った。結果、資料から察する、彼の「猫背気味の背中、優しい声、どこか地味な印象」とは正反対のマルセルになりました。対話をするマルセル、それは言葉の可能性を信じた私のたったひとつの方法だったのですが、どうだったでしょうか。振り返ることができるのは、少し時間が経ってからのような気がしています。
いかがだったでしょうか。僕は元々ジャズエイジ、と呼ばれる1920年代の狂騒を愛していました。古いものが壊れ、新しいものが沢山生まれ、そして消えていきました。この時代がたくさんの映画、小説の舞台たりうる理由もどこか頷ける気がします。心は1920年代のニューヨークに残したまま、私たちは次の旅路へと向かいます。
「光、さえも」光=神であるのなら、フィルが休憩前に語った言葉は、真実を一面だけ照らしています。光は見ることができない。神もまたそれと一緒で、近づくことはできないが、自らの影を見て私たちは神も自分もまたここにいると信じることができる。
「しかし、人間なら」わかりあうことが、できるかもしれない。
俳優ひとりひとりに一言だけ。
ダニー … 康太郎さんの「芸」を表現する「術」を堪能させてもらいました
キャサリン … もなみん。史実と一番違う、難しい、僕の分身を生きたものにしてくれてありがとう。
ジョージア … macoちゃんの華、すごかったです。もっともっと誰かを変えて欲しい。自分を変えていって欲しい。
ディヴィッド… 丸光くん。男性陣の中でジャズエイジを体現してくれたフォトジェニック。
フィル … あかり。あなたの情熱と信仰心がAmmoを動かしています。
マルセル … 修平。毎度お馴染みですが、僕の無理難題を背負っててくれてありがとう。Ammoが始まったね。
ラリー … 浅倉さん。こんなにも真摯に座組と作品に抜き身で向き合ってくれる人を知りません。
ルイーズ … しっしー。会議の中と同じく、僕たちを公平に、でも肩入れして見てくれた。
レノ … 吉村さん。あなたの言葉には嘘がなかった。なにひとつ。
ロイ … 坂井さん。ロイはあなたのものです。サンキューベイブ。フォーエバーベイブ。
メアリー … まりな。世界の向こう側は見えましたか。ダニーとのシーンは私にとっても宝物です。
劇団員披露リーディング公演「わたしのイスラム」も大変好評をいただいてありがたく思っております。
このような形で陽の目を見ることができるとは。
長くMinami Produceで僕の作品の核となってくれた芝原弘(黒色綺譚カナリア派/コマイぬ)君に私たちの門出を祝っていただいたのは実は僕だけがじん、と来ていました。
Ammoの名刺代わりとしてこの作品もいつか必ず再演します。
大変長くなってしまいましたが、本当にありがとうございました。次回のAmmoは2月です。
再びボスニア・ヘルツェゴビナの大地に讃歌を響かせるために、また必死で取り組みます。
そのために、今はしばしの休憩を。
あらゆる方々、特に見に来てくだたったお客さまと勇敢な俳優、素晴らしいスタッフと最高のサポートをしてくださったSPACE 雑遊に心より感謝を申し上げます。
Ammo 南慎介 拝